漢方について

身近な症状と治療の実際2 【冷えむくみ】

冷え

 だんだん地球が暖かくなってきたとはいえ、「冷え」はつらいもの。
でも、冷えにもいろんなタイプがあり、その対処法もさまざまなのです。

冷えの原因

 冷えの原因を漢方的に考えると、「陽」すなわち温かい「気」(=エネルギー」)の絶対量が低下しているもの(=陽虚証)と、体内に水分が余剰に停滞することによって体が冷えるもの(=水毒証)、血流量の低下によって冷えを感じるもの(=血虚証)によるものの3つのタイプに大別できます。 「陽虚証」の特徴としては、普段から元気がない、食欲がない、声に力がないなどの気虚証の症状に加えて、尿量が多い、ちょっとしたことで消化不良の下痢をしやすい、舌が淡白〜紫などの特徴があり、四季を通じて厚着をしていないと寒く感じることが多いようです。

 このタイプの人は、食事も温かいものを好み、生野菜や果物、冷たい飲み物が苦手です。一方、「水毒証」タイプは、普段から手足が重だるい、低気圧が通過したり雨が降ったりすると体調が悪くなり頭痛や食欲不振が強くなる、舌に厚い苔がべったりとついている、むくみやすいなどの症状があります。また、「血虚証」の特徴としては、めまいや目のかすみ、手足のしびれ、舌が淡色などの特徴があります。 これらの原因は単一で存在する場合もありますが、多くは「陽虚と血虚」「陽虚と水毒」というように複数の原因が併存する場合が多いようです。

冷えの予防と治療

陽虚証
 このタイプの人は、体質的に熱を産生しにくいので、まずは、普段から薄着をしない、温かいものを食べたり飲んだりする、少しづつ運動をすることで熱産生に大切な筋肉量をふやすように心掛けるなどの注意が必要です。治療に用いる漢方薬としては、「気」を補う人参、黄耆、「陽」を補う乾姜、附子などの入ったお薬を用います。中でも「附子」は毒性をもつ「トリカブト」の根(子根)ですが、これに熱を加えるなどして毒性を取り去った「炮附子」は体を温める作用が強く、陽虚証の冷えには欠かせない生薬です。現在、保険で使うことのできる漢方薬では、『人参湯」『附子理中湯」『八味地黄丸」などが代表的なものです。

水毒証
 水毒証を引き起こす原因の第一は、水分の取りすぎです。外来に来られる患者さんのなかには、「水をのむことが健康」とか「水を飲んで血液をさらさらに」というようなキャッチフレーズを妄信して、一日何リットルも水やお茶をのみ、体が水浸しになっているケースをよく見かけます。
 体に取りこまれた水分は、最終的に呼吸・汗・尿・便として体外に排泄されます。普段から積極的に体を動かし呼吸や汗として水分を発散する量の多い人はそれだけ水分のを多く取らなければなりませんが、多くの現代人は運動不足のことが多く、このような人がむやみやたらに水分を取れば、余分な水分が体内にたまってくるのは当然のことです。これが「水毒」であり、むくみや冷えの大きな原因になるのです。
 水毒証に陥らないためには、「温かいものを少しづつ飲む」という原則を守り、普段から運動などで体を動かす習慣をつけることです。お仕事で忙しく運動する暇がない!という方でも、駅やビルの中で、なるべくエレベーターやエスカレーターに乗らずに階段を歩く、電車やバスに乗ったときに一駅分歩いてみる、など、運動の機会はどこにでもあるはずです。食事も温かいものやスパイスの効いたものをとることで、少しでも汗から排出される水分量を増やしましょう。
 水毒証に対する漢方薬の代表は『五苓散』ですが、冷えの強い水毒証に対しては、真武湯が有効です。真武湯は、冷たい物の取りすぎで急な下痢になった時の特効薬で、水毒と冷えによるめまいにも用いられます。

血虚証
 このタイプは、血液の循環量が少なかったり、血液による栄養分の供給量がすくなかったりすることで冷えを生じるもので、女性に多いタイプです。原因としては、月経の異常によるものもありますが、多くは、毎日の食事に問題があるケースです。すなわち、朝食を食べない、「太りたくない」という理由で生野菜やジュース類を多く取り、動物性タンパクや根菜類、豆類などが少ない、コンビニ弁当やファーストフードなどで食事を済ませてしまう、など、生命維持の根源である「食事」に無頓着なライフスタイルが、血虚証による冷えを生んでいるともいえます。対策としては、これらの食生活を中心としたライフスタイルの見直しが第一ですが、いわゆる「補血薬」と呼ばれる、当帰、芍薬、地黄などを配合したお薬を服用することも有効です。方剤としては、女性の聖薬として有名な『当帰芍薬散』やこれに炮附子を加えた『当帰芍薬散加附子』、手足の冷えに対するファーストチョイスである『当帰四逆加呉茱萸生姜湯』、気血両虚証に対する『十全大補湯』、産後の冷えなどに用いられる『キュウ帰調血飲』など、女性の冷えに対する処方は多く、冷えの特徴に合わせて選択する必要があります。

冷えのぼせ

 冷えのぼせは、更年期過ぎの女性に多くみられる症状で、漢方的には冷え症状に、オ血、気滞などによって「気が上にあがる」現象が生じたものです。

 普段からリラクセーションをはかり、運動と休養をしっかりとり、自律神経を整えることが大事ですが、漢方では加味逍遥散や桂枝茯苓丸がよく用いられます。加味逍遥散は私の最もよく使用する処方の一つであり、冷えのぼせだけでなく、月経前症候群や血虚血オ証による不眠などにも用いられます。桂枝茯苓丸も更年期以降ののぼせには著効を示すことも多く、愛用しておられる患者さんも多くおられます。

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むくみ(浮腫)

 むくみとは、体の細胞外液(細胞と細胞の間の水)が増加しておこる症状ですが、その原因は次のように大別されます。

1)血液中のたんぱく質の濃度が低下することによる浸透圧の影響で血管内の水分が血管外に出ていくケース
例)ネフローゼなどの腎臓病、肝硬変、悪性疾患による低蛋白血症など
2)血管(特に静脈・毛細血管)の内圧が高くなり血管内の水分がにじみ出るケース
例)うっ血性心不全 静脈瘤など
3)血管壁の変化により血管内から水分が漏れやすくなるケース
例)膠原病による血管炎など
4)その他
例)甲上腺機能低下症 特発性浮腫など


 むくみをきたす原因はさまざまであり、西洋医学的な治療を要する場合も少なくないため、「最近なぜかむくみが出てきたな」と思ったら、まずは内科医に相談して原因を探ることが必要です。

 しかし、内科的に特に問題がない場合も多くあり、朝晩の体重差が1.4Kg 以上になる場合には「特発性浮腫」と診断されます。特発性浮腫は成人女性に多く、ストレスなどで増悪する場合が多いと言われていますが、漢方では、『五苓散』や『防已黄耆湯』、『当帰芍薬散』などが用いられます。

 また、特に中年以降の女性の方に多くみられるのは、血液のめぐりが悪く、漢方で言う「オ血」の状態が強くなったためにおこるむくみです。オ血の症状としては、舌の色が悪い、舌下静脈(舌の裏側の静脈)の怒張がある、腹部などに固定性の痛みを感じるなどがありますが、静脈瘤もオ血の代表的なサインの一つです。この静脈瘤によるむくみには、オ血を改善する当帰・川キュウ・紅花・桃仁・牡丹皮などの生薬を含む、『キュウ帰調血飲きゅうきちょうけついん』・『当帰芍薬散とうきしゃくやくさん』・『桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん』などを用います。また、オ血体質の方は、日頃から食生活に偏りがあったり、冷えやすい生活をしておられる方が多いので、日常生活に気を配ることも必要です。

 また、むくみに対する代表的な処方である『五苓散ごれいさん』は、単に利尿作用だけでなく、血管外から血管内へ水を引き込む作用もあると言われており、血管内のたんぱく質が低下しておこるむくみにも期待ができますし、心不全によるむくみには『木防已湯もくぼういとう』という処方が知られています。

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