なんとなく食欲がない、胃がもたれる、胸やけがする、ちょっとしたことで胃が痛い、などの症状はだれもが一度は経験したことがあるかと思います。このような症状が続く場合は、まずは胃の検査を受けることが必要です。もし、検査で胃潰瘍や胃癌が見つかった場合は、ためらわずに西洋医学的治療を受けることをお勧めします。
検査では明らかな潰瘍や腫瘍が見つからなかった場合、これまでは、「神経性」「気のせい」などと片づけられていたのですが、最近では、「胃食道逆流症(GERD)」や「機能性胃腸症(FD)」など、新しい概念とともにその病態の解明が進んできました。
一方、これらの症状に対して漢方では以前から『
これらの薬は、FDにもGERDにも用いられますが、特に、六君子湯は近年、「グレリン」という食欲を増進させるホルモン分泌に関係することがわかってきており、漢方薬の効き目が科学的に実証された一つのよい例といえます。
他には、普段から食欲が少なく、ストレスを感じたりおなかが冷えたりすると胃のあたりがしくしく痛む、というような場合には『
昔から「腹8分目」というように、満腹するまで食べない、飲まないというのは健康の基本中の基本です。実際、動物実験においても、食べたいだけ食べさせたマウスと食事を制限したマウスでは、後者のほうが寿命も長く癌の発生率も低いことが証明されています。特に我々日本人の遺伝子は、飢餓には強く、飽食に弱いということが言われており、食べすぎ・飲みすぎをしないことが「健康で長生き」の秘訣であることは間違いありません。
でも、「わかっちゃいるけどやめられない」という真理をついた言葉があるように、おいしいものを目の前にしたり、気の置けない仲間と楽しい語らいをするうちに、つい「過ごして」しまうことは誰にでもあることです。
食べ過ぎた、飲みすぎたな、という場合は、一般的には、次の食事の量を控えたり、ゆっくり休養をとることで、特に治療をせずとも大事なく過ごせることが多いかと思いますが、翌日にも仕事が詰まっていたり、胃腸を十分に休ませることができないまま次も会食、というような場合には、前項で挙げた半夏シャ心湯がファーストチョイスになります。
また、普段から「食べたいのだけど量が食べられない」という場合は、体質改善剤として『六君子湯』や『補中益気湯』を続けてみることもよいでしょう。
また半夏シャ心湯を飲酒の前に飲んでおくと、翌日の胸やけなど不快な症状が予防されるため、「お酒の前の薬」として『半夏シャ心湯』を常用されている患者さんもおられます。
また、飲みすぎで胃腸がポチャポチャいったり不快なげっぷや胸やけ、頭痛がある場合には、『五苓散』を少しずつふくようするのもよいかと思います。
「脳腸相関」という言葉があるように、腸の動きは精神的な状態と密接な関連があります。旅行に出たり夜更かしをしたりして生活のリズムが変わる、あるいは、会社や家庭でのストレスが強い、などをきっかけに便秘や下痢になることはよく経験することです。「過敏性腸症候群(IBS)」はこのようにちょっとしたストレスなどにより繰り返し便秘や下痢を起こす病気で、「1か月に3日以上症状のおこる日が、3か月以上ある」「排便のあとに症状が軽快する」などが特徴で、便秘型、下痢型、(下痢便秘)混合型、分類不能型に分けられています。私のクリニックにも、IBSの患者さんが多く来られていますが、学校で授業中にお腹が痛くなったり、朝の通勤時に症状が出ると途中で電車を降りなければいけないなど、社会生活に支障をきたすことも少なくありません。
このような症状に対して漢方では、主に、@緊張を和らげる A体、特にお腹をあたためる B腸の消化吸収能力を改善する という三つの方法で対応します。具体的には、@に関しては「柴胡」という生薬の入った「柴胡剤」がよくつかわれます。『四(し)逆散(ぎゃくさん)』、『
他に、便秘が強い場合には、『
ただ、単に便の異常・・と軽く考えていると実は大腸癌であった、という場合もあり得ますので、定期的な腸の検査が必要なことは言うまでもありません。